プルーストと絵画の歴史的背景を考察するため、『失われた時を求めて』と関連作品、『プルースト書簡集』、フランス国立図書館所蔵のプルースト資料などを読み直し、『失われた時を求めて』校訂版索引、『プルースト書簡集総合索引』などを活用して、そこにあらわれた絵画の歴史的背景に関する情報を抽出した。この十年来の吉川のプルーストと絵画に関する研究成果を見直し、作家がいつ、どのような状況で実在画家の画と出会い、それをどのように小説本文に採り入れたかについての実証的調査結果のうち、プルーストが見ていた当時の美術館や展覧会、私的コレクション、美術をめぐる専門書や論文などの記述を体系的にとり出すように努めた。 その一方で、プルーストと絵画をめぐる専門文献を補充し、プルーストが見ていた可能性がある当時の美術館の収蔵品、展覧会の展示作品、パリ社交界を中心とする私的コレクションの実態を調査するため、当時の美術館カタログ、19世紀末から20世紀初頭にパリで開催された美術展カタログ、当時の私的コレクションの競売カタログなどの一部を蒐集し、これを精査した。さらに作家が参照した可能性のある当時の美術書や専門論文などもできるかぎり蒐集し、調査したうえで関連情報をとり出した。 国内旅費を用いて、直接購入できない資料を調査するとともに、国内専門家の教示を仰いだ。また外国旅費によりフランスの専門家(イザベル・セルサ)を招聘し、直接に助言と教示をえた。さらに購入した携帯パソコンに、以上に述べた調査結果を保存して、整理した。 研究成果の一端をプルーストに関する研究会やシンポジウムなどで口頭発表し(「プルーストと絵画コレクター」「プルースト-批評から創作へ」「プルーストと印象主義」)、また「研究発表」の項に記したフランス語論文にとりまとめた。
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