1900年界隈の光学研究としては、モーツァルト/シカネーダー『魔笛』の舞台分析を試みた。さまざまな機械仕掛けが、じつは、神の力の視覚的な提示であると考える伝統をあきらかにした。 魔法オペラというジャンルと平行して、テアトルム・ムンディというからくり見世物が確立していた。この見世物の世界観は、神の力が機械的に世界を支配している、というものだった。神と世界は機械的に連結しているのである。いわば、仕掛けからくりは、神の力の視覚化にほかならない。魔法の笛の音色は、神の力の聴覚化であるが、笛も、笛に踊る獣たちも、神の力の視覚化である。 神の力を伝達するオペラが具体物で考えるように、哲学一般もまた思考を視覚化の過程として提示する。今後の展開としては、アヴィ・ヴァールブルクのパネル展示による芸術哲学などを念頭においている。彼のムネモシュネー・シリーズの、そのシリーズ化できる発想が、どのようにして可能なのか。 シリーズが視覚化されてパネル展示となるとき、思考をパネルとする効果についても追求してみたい。 今般のBildwissenschaftというドイツでの一大潮流は、いたるところにシリーズを見い出し、すべてヴィジュアル・スタディーズのテーマとして展開するところに来ている。文字の視覚的配列の表現も含めて、いちど、古代から現代にいたる視覚シリーズの歴史を総括しておきたい。
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