平成18年4月に17世紀英文学会東京支部例会において書籍商リチャード・チズウェルのブックリストからみる王政復古期社会と書物との関係についての研究発表をいった。17世紀英文学を専門とする日本人研究者から様々な疑問や意見が寄せられたことからさらにこのテーマを掘り下げる意義を再認識した。以来引き続き書籍巻末ブックリストの検証を行っている。 18年8月はイギリス現地調査を行い、17世紀出版事情の研究の第一人者であるピーター・リンデンバウム教授から研究協力を得ながら大英図書館において文献資料調査を行うなど共同研究を行った。また、18年9月にはヨーロッパ最大の稀覯本展として有名なヨーク・ブックフェアに赴き、17世イギリス歴史・文学の権威であるグレアム・パリー教授からの協力を得ながらこの研究に有益な書籍の確認・文献入手をした。 現地調査から多くの着想も得た。リンデンバウム教授とのやりとりから、当時の出版・印刷業界の諸状況の正確な理解を得るため、チズウェルと類似したタイプの書籍商ジェイコブ・トンソンについての調査を始めた。パリー教授とのやりとりからは、ブックリスト以外に書籍巻末に印刷されたサブスクライバーリストの持つ歴史的価値を知り、その調査もあわせて行うようになった。 王政復古期イギリス社会では博学で知られ、王立協会でも重要な地位にあったジョン・イーヴリンが、王政復古直前に匿名で発表したトラクト"A Character of England"について、マイナー作品と評価されてきたが実は筆者の後の作品群の核となる部分から構成される意義深い作品であることを証明する論文をまとめた。
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