研究課題/領域番号 |
18520231
|
研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
中島 廣子 大阪市立大学, 大学院・文学研究科, 教授 (40047379)
|
研究分担者 |
田中 孝信 大阪市立大学, 大学院・文学研究科, 教授 (20171770)
|
キーワード | 19世紀英仏文学 / ジャーナリズム / 戦争報道 / 普仏戦争 / ボーア戦争 / 国民国家 / 帝国主義 / ナジョナリズム |
研究概要 |
本研究は、19世紀後半のイギリスとフランスにおける文学と大衆ジャーナリズムとの相関関係を、特に戦争報道という側面から比較検討することを目的とし、クリミア戦争期からボーア戦争期までを対象に考察した。今年度は、平成18年度以来の資料収集・調査に基づく分析結果をふまえ、英仏二カ国間での比較作業を経て総合的見地から研究完成に至った。 この時期の文学と戦争報道との関わりは、近代国民国家形成期における特異な現象の一つであり、帝国意識の高揚にあずかって様々な「近代神話」形成に寄与したことが明らかとなった。ヨーロッパ大陸内での戦争の代表例として、フランスでは普仏戦争とその後の内乱が引き起こした深刻な後遺症への反動として、文化礼賛に大きく傾斜した点に、経済優先の英国との落差が垣間見られた。植民地戦争に関しては、英仏両国において西洋文明・人種の優位性誇示の姿勢とともに、時には逆侵略の恐怖も存在するようになる。これは特に「セポイの反乱」以降の特徴で、東洋に対して理解困難な神秘のイメージに発する「異国趣味」も強調されてゆく。そして、それらが報道や新聞広告を通して大衆層に浸透すると同時に、場合によっては国民国家形成という国家戦略を密かに蚕食してゆく事実を解明した。また、これらの現象が文学分野にも色濃く投影され、それぞれ神話化されていっている点が、英仏文学のキプリングやヴェルヌはもとより、耽美主義的な文学者たちの作品に至るまで顕著に認められた。それらの豊富な具体例に基づいて検証を行った成果は、学会シンポジウムや論文投稿の形で公表しており、研究成果報皆書を作成したうえで、それをもとに著書としての刊行を目指している。
|