研究概要 |
本研究は,近世初期の植物誌(本草書)の成立において重要な役割を果たしながら,その解明がこれまで手付かずの状況にあった15世紀末にドイツで出版された植物誌群の文献学的研究とヨーロッパ諸国への影響を探ることにある。 本プロシェクトの最終年度にあたる平成20年度の計画は,マインツの医師ヨーハネス・ヴォネッケ・フォン・ブライデンバッハの手になる『健康の庭』((H)ortus Sanitatis)の解読作業の継続にあった。昨年度すでに荻野蔵平,バウアー・トビアス訳「健康の庭」(熊本大学文学部『文学部論叢』第98号,2000年,P.167-182)ならびにBauer,Tobias/Ogino, Kurahei:Elemente der antiken Humo rarpathologie im “Gart der Gesundheit"(熊本大学大学院杜会科学研究科『熊本大学社会文化研究』第6号,2008年,P.41-58)において発表した分析結果に基づき解読を続行した結果,本書は全体にわたりは呪術的説明と並んで,実証的な記述が数多く含まれており,近代植物学への先駆けとなる役割を果たしていたことが確認できた。 今年度はさらに『健康の庭』を当時の医学的世界観との関連からより深く分析するためにオルトルフ・フォン・バイアーラントの『薬方書』(Das Arzneibuch)を研究範囲に取り入れた。13世紀終わり頃に成立したこの薬方書は15・16世紀においてドイツ語圏全体で最も知られた著作の一つである。その構成は3部からなり,今回は第2部第4論「(偽)ヒポクラテスに基づく診断的・予後的覚書」から特に「死兆」(signa mortis)に関する諸章を分析した。本書の詳細な分析は,中世から近世にかけての死生観の変遷,さらに中世医学から近代医学への移行のプロセスを解明する大きな手掛かりになると期待されるが,今回の研究成果の一部は荻野蔵平,バウアー・トビアス訳:オルトルフ・フォン・バイアーラント『薬方書』(Das Arzneibuch)(熊本大学文学部『文学部論叢』第100号,2009年,P,135-144)として発表した。
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