研究概要 |
本年度は、研究対象となる中世後期イギリスの宗教写本に関して、正確なチェックリストを作成する作業と、未刊行テクストの転写、校訂作業を並行して進めた。また、中世イギリスの宗教文学の様々なジャンルについて書物文化史的視点から分析し、成果を発表した。 1.主要な研究対象となるOxford,Bodl.Libr.MS Rawlinson C.894;Douce 322;London,BL MS Royal 17.C.18;Royal 17.B.43;Harley 1706の5写本について、その内容の詳細なチェックリストを作成した。 2.Bodl.Lbir.MS Rawlinson C.894写本とそれと緊密な関係にあるLondon,BL MS Royal 17.C.18の2写本をマイクロフィルムを用いて精査し、写本編纂者(compilator)の手になると思われるテクスト間のルブリカ、写字生あるいは同時代の読者による欄外書き込みなどを調査し記録すると共に、未刊行テクストの転写を開始した。まず、この2写本の両方に含まれる英語の宗教散文テクスト、擬ベルナルドゥス作Meditationes piissimaeの中世英語テクストを、16世紀のWynkyn de Wordeの刊本テクストとも比較しつつ転写した。また中世写本から転写したテクストのXMLエンコーディングのためのタグセットを整備した。 3.St Patriek's Purgatoryをはじめとする中世後期のヴィジョン文学に関して14-15世紀の現存する複数のヴァージョンを比較し、写本間の記述の違いに明らかにし、その理由を写本の編纂方針と読者層の違いと関連づけて分析した。 4.中世イギリス文学への書物文化史的アプローチを中世文学研究史の視点から整理し、書物文化史がキリスト教教化文学のみならずチョーサーのような世俗文学の分析にも活用可能なことを、今後の研究の方向性とともにまとめ、成果として発表した。
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