研究概要 |
本研究は、14-16世紀に英語で制作された宗教散文テクストとその写本をそのテクストとパラテクスト(挿絵、所有者等)の両方に注目して調査することで、テクストが中世後期の読者によっていかに受容され変容していったかを明らかにし、また中世後期の宗教文学の特質を、その時代の書物文化史との関わりにおいて論じることを目的とする。本年度は以下の点において具体的な業績が得られた。 1.15世紀イギリスの宗教文学アンソロジー写本に関して、未刊行テクストのトランスクリプションをタグ付けを作成し、書物文化史的研究のための基礎資料を隔離した。複数の写本に同一作品が現存する場合(特にOxford, Bodl. Libr. MS Rawlinson C.894; London, BL MS Royal17.C.18の両写本)に関しては、比較校合によりテクスト間の差異を確認した。 2.研究期間の最終年度に当たり、これまでに書誌学的分析やトランスクリプションをおこなった中世後期イギリスの宗教散文テクストを用いて、(1)中世後期の神秘主義的テクストの15-16世紀における俗信徒による受容、(2)London, B. L. MS Add.34193に含まれるヴィジョン文学における中世後期の異界への心性に関して研究をまとめ、学会発表及び研究論文として発表した。中世後期の宗教的心性が写本や初期印刷本の編集方針に具体的に反映されていることを証明することで、書物史的方法論が文学史研究に具体的に寄与することを示した。
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