研究概要 |
「写本テクスト学におけるヴァリアントの総合的研究」と題した本研究課題(3年間)の初年度にあたり,中世南仏抒情詩の古典期に活躍したトルバドゥールであるペイレ・ヴィダル(12世紀後半から13世紀初頭)にかんして,そのテクストにかんする従来の研究を俯瞰し,論文として2編をまとめることができた。 1.「ペイレ・ヴィダルの"パレスチナの歌"-baiser voleのモチーフを中心にして-」では,従来の研究史をたどり,13写本に収録されたAjostar e lassarで始まる94行にのぼる長大な作品を,底本をCに設定して校訂した。これまでの解釈をまとめて私なりの検討を加え,さらに各写本,とくにペイレの作品を多く収録するAとCの写本の収録のしかた(各詩篇の収録の順序)を,baiser voleのモチーフを縦糸にして,いかに各詩を横断的によむことができるかを示した。 2.「作家主義か作品主義か-ペイレ・ヴィダルの抒情詩の並べかたについて」では,前掲論文において詳しく扱うことのできなかった,作品の並べかたの一般論をまとめてみた。従来の校訂では,作者の伝記的な観点から年代順に配置するか,あるいはそれが困難であることを認めて,出だしの句のアルファベット順に並べるかの二つの方法が主流であった。1960年のアヴァッレの校訂では,ペイレのオリジナル写本があったという前提をもとに,それをテクストのヴァリアントより推測して新たに並べ替えている。私は,現存の収録写本(ここではC写本)をもとにするという立場を示したが,具体的な検証は次年度の課題となった。
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