研究概要 |
本年度は,本研究課題の3年目,すなわち最終年度にあたり,研究の成果を発表することに主眼をおいた。 中世オック語における抒情詩の写本テクストを文献学的に研究し,とくにヴァリアントの相違に注目するという今回の研究は,「第9回オック語オック文学国際研究学会」(アーヒェン工科大学,2008年8月24日から31日)での研究発表でとりあえずの成果を公表し,帰途にフランス国立図書館に寄って資料の閲覧と収集をおこなうことができた。研究発表の骨子は,日本語で前年度末に発表していた「封建制語彙の俗語抒情詩への転用-「若い領主」(ガウセルム・ファイディット)をめぐって-」(文学研究科紀要)で示しておいたが,今回のアーヒェンでの発表はそれをフランス語にしてさらに資料的に深めたものであった。昨年度,本研究課題の枠内で日本に招聘したピーター・リケッツ教授(ロンドン大学名誉教授)の編纂されたCOM2(Concordance de l'occitan medieval2)を活用し,語彙のヴァリアントを電子資料で確認することができた。同時に,校訂版を基礎とするこの種の資料の限界もあきらかになった。各写本のヴァリアントは,やはり直接参照することが必要不可欠なのである。当日はドミニック・ビイー(トゥールーズ大学),ピエトロ・ベルトラミ(ピサ大学),アンナ・フェラーリ(ローマ大学)ら各先生より貴重な示唆を受けることができた。この発表は,それらのご意見をもとに直したものをアーヒェン大学の審査委員会に送付し,2009年3月にそれを通過して,2009年末に公刊される論文集に収録される予定である。
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