本研究は20世紀のドイツ・米国・日本の「科学啓蒙雑誌」(いわゆる「ポピュラー科学雑誌」)の表象分析を目指す。そこに表出された種々の「科学イメージ」の表象分析を通じて、20世紀大衆社会が獲得するに至った科学技術観が「現代社会の神話」(ロラン・バルト)として、20世紀大衆社会の言説の枠組みを形成していった過程を明確にすることを目指すものである。 本年度、本研究では上記の雑誌総計10誌を創刊号から最終号まで総覧し、誌上に掲載された科学技術及び製品化されたテクノロジー約120項目に関する記事のテキスト分析、写真・図版の図像学的ディスクール分析をおこなった。そうした分析を通じて、各ポピュラー科学雑誌が深く連動している各国固有の社会事情の相違にもかかわらず、共通して持っている酷似した問題の捉え方や表現スタイルを明らかにした。相違しながら同一であり、同一でありながら相違する。こうした微妙な表象の多層的構造のなかに、国の違いを超えて20世紀の都市型大衆という共通した科学情報の受信者像を浮かび上がらせた。本研究が狭義の科学ジャーナリズム文体批評に終わらず、広く20世紀大衆社会のディスクール分析たり得る所以を実践した。 本年度は雑誌論文を二本執筆した他に、平成19年3月単著単行本『暮らしのテクノロジー…20世紀ポピュラーサイエンスの神話』(大修館書店、309頁)を刊行し、ひとり学会のみならず公共にもその研究成果を発表した。
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