本研究は20世紀のドイツ・米国・日本の「科学啓蒙雑誌」(いわゆる「ポピュラー科学雑誌」)の表象分析を目指した。そこに表出された種々の「科学イメージ」の表象分析を通じて、20世紀大衆社会が獲得するに至った科学技術観が「現代社会の神話」(ロラン・バルト)として、20世紀大衆社会の言説の枠組みを形成していった過程を明確にすることを目指した。 本研究の目的は、大衆と世界との関係性の中に既に存在し機能している科学技術を分析の出発点としながら、科学啓蒙雑誌という媒体を通して「大衆化された科学情報」と出会う中で形成され・変容させられてゆく大衆の価値観を析出することであり、科学情報との関わりに於いて、大衆が文化的無意識の内に絡め取られている様々な価値の枠組み・言説の枠組みを析出することであった。 こうした問題設定の枠組みに従い、とりわけ今年度は「流線形デザイン」を主題として、本来物理学・工業デザイン用語であった「流線形」が、ポピュラー系科学雑誌をはじめ各種メディアを介することにより、比喩化、記号性の水平移動を起こす経緯。意味論的には、「空気抵抗を排除する形状」から「障害因子一般を排除する方途」へと移動・拡大する経緯を明らかにした。この成果は単著『流線形シンドローム』(紀伊国屋書店)として刊行し公共に供したと同時に、早稲田大学理工学研究所・モビリティ研究会主催の第27回学会に於いて学会発表した。 これと平行して、自動車の特殊形態「一輪車」、道具の細部「グリップ」、空間移動としての観光旅行の「道具各種」をテーマとして雑誌論文を複数発表した。
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