1.奴隷時代の歌の現代音楽との関連については、研究のまとまりをみた。重要点を以下にまとめる。 (1)現実への絶望が死後の世界への希望となり、その希望の表現が創作の源となっている。 (2)率直に言語表現するのを禁止・抑圧されている状況で、なお表現したいとの気持ちが、独特の迂回表現を生み、それがフォーミュラ化してアフリカ系アメリカ人の言語活動の特色として発展してきた。 (3)アフリカ系アメリカ人の音楽文化は、白人系音楽プロモータの扱いによって消滅、発展、変遷してきた。 (4) (3)の過程で、宗教音楽と俗音楽に分離してきた。 (5)黒人による音楽文化プロモーションは、30年代に宗教音楽をはじめとして開始した。 2.ラップ文化の研究については、研究素材が膨大であることと、相当なフィールドリサーチが必要になることがわかったため、本研究期間において終了することはむりである。そこで、本助成期間の成果としては、この課題でもっとも重要な論考を発表していると思われるマイケル・ダイソン氏の著書の翻訳をすることとした。これについて、出版社と交渉中である。これまでにわかっている重要な点は以下。 (1)ヒップホップの歌詞に表象される母親が、奴隷歌の母親像(絶対的な保護者)に深く関連している。 (2)ヒップホップの歌詞に表象される恋人が、ブルースの歌詞の恋人像(誘惑的な悪であり拒否者)に深く関連している。 (3)闘争の表象に、60年代から広い支持を得てきているブラックイスラムの影響がみられる。 (4)ヒップホップ世代の歌い手・作者たちが、ブラックイスラム運動の第二世代(子供たちの世代)であり、その運動のインパクトと失敗とを感覚的に受け継いでいる。
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