13〜15世紀に英語とフランス語あるいはラテン語で書かれたテキストが共に書かれている写本の作者、読者、使用者、編纂者について調査することにより、中世後期のイギリスの言語事情を明らかにすることが目的である。18年度は中世のイギリスにおける言語と社会に関する文献リストを作成し、中世の写本や歴史についての図書やマイクロフィルムを国内外で購入した。8月にはイギリスのケンブリッジ大学図書館で写本調査を行いながら、日本では入手が困難な資料をコピーし、国内でも研究が続けられるようにした。コピーはすべてA4に統一し、ファイルに入れ整理した。毎年訪れるケンブリッジでは、中世の分野の学者たちと積極的に交流し、最近の研究について話し合った。 9〜11月にはアメリカのノース・カロライナ大学教授であるパトリック・オニール博士を関西大学・東西学術研究所に招聘し、今回の研究について、この第一線で活躍する研究者とゆっくりとディスカッションする機会を得ることができたのも大きな成果であった。また、12月には日本中世英語英文学会のシンポジウムのために来日したイギリスのサザンプトン大学のベラ・ミレット博士の発表に対するコメントを述べる機会に恵まれ、大いに刺激を受けた。 研究を進めているうちに、アイルランドのウォーターフォード市立図書館に、中世に書かれた郷土の歴史を記録した写本が残っており、英語、ラテン語、フランス語の3言語による記述であることがわかった。長期にわたる記録であるため、時代の流れによって、当時、アイルランドで非常に栄えたこの都市で、どのように言語の使用が変化したかを知る興味深い文献である。大英図書館が所蔵する3ヶ国語による写本との関係を考察する足がかりとなる重要な資料となりそうである。次年度の研究につなげてゆきたい。
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