本年度は、8月にイギリスでは、ケンブリッジ大学図書館、ロンドンの大英図書館、アイルランドでは、トリニティ・カレッジ図書館およびアイルランド国立図書館において写本調査を行うとともに、13〜14世紀のイギリスにおけるフランス語とラテン語の社会的地位を示す証拠となる記録を中心に収集した。さらに、日本では入手が困難な中英語とフランス語またはラテン語で書かれた文学のテキストに関する貴重資料をコピーし、国内でも研究が続けられるようにした。それと同時に、調査地では現地の中世研究者と積極的に交流し、お互いの研究成果についてディスカッションした。 5月には広島大学で開催された日本英文学会全国大会のシンポジウムで、13世紀に書かれたAncrene Wisseと神秘主義について発表した。また、関西大学東西学術研究所において、国際シンポジウム「国境なきヨーロッパ:文学における異文化接触の形」を企画し開催することができた。基調講演には東京大学の高田康成教授を招き、海外からは、第一線で活躍しているアメリカ・ノースカロライナ大学のパトリック・オニール教授を招へいし、関西大学の2名の教授とともに、イギリス、ドイツ、スペイン、南アメリカの文学に見られる異文化の衝突、同化、共生について発表を行い、大いに研究を深めるよい機会となった。予定されていたもう一人のパネリストであるスペインのナヴァラ大学のアンドリュー・プリーズ博士の来日は、博士の一身上の理由のため急遽、キャンセルとなってしまったが、送られてきた発表原稿を、オニール教授が代読した。このシンポジウムの成果は平成21年に単行本として刊行されることになっている。
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