1 戦後の1950年代から70年代にかけて刊行された「少女」向け翻訳叢書について、すでに集積していたデータを基盤として、その中からとくに金の星社刊の「少女・世界推理名作選集」を選び、各館の収蔵状況をもとに、刊行の実態を調査した。またそれに関連する探偵・推理小説の翻訳叢書についても、複数の叢書を調査した。その結果、戦後の社会状況とまさに合致するかたちで、「少女」向けに推理小説の翻訳が行われていたことが明確になった。その一方、ウールリッチ作品の翻訳に注目した研究からは、表立って理想とされる行動的な「少女」像の追求の裏側に存在する、「哀れさ」を基調とする「女性」像が、媒介者の意識にあることが明らかとなった。 2 「児童文学翻訳総覧」をもとに、とくに戦前・戦後を通じて翻訳・再話の多いディケンズ作品に注目した。そして調査を続けた結果・同総覧には収載されていない再話作品の重要性が浮上した。『オリバー・トゥイスト』の再話にあたる佐藤紅緑「緑の天使」である。ここには、「少女」である登場人物の強化と付加という、二通りの方法が用いられており、「少女」イメージも複層的なものが存すると考えられる。これについては今後、さらに検討をしていきたい。 3 これまでの研究の途中経過的なまとめとして、「ジェンダーと児童文学」というテーマを追求し、まとめた。次年度には刊行の運びとなるが、これをもとに、児童文学における翻訳・再話行為と、「少女」を中心とするジェンダー意識の関連を、理論的に整理しているところである。
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