交付申請書記載の「研究実施計画」に基づき、本年度の成果を以下に記す。 (1)原典の細部の理解については、さまざまな古典テキストから情報を収集し、数年以内には古代社会について一書を著せる可能性も見えてきた。雑誌論文「「耕す」とは「殺す」こと?」は、このような研究方法の成果のひとつである。 (2)テキスト本文と添書との関連については、詞華集『十の十』を読み進めることで新たな知見にいたると思ったが、『英雄詩四百』のある詩人と同一詩人に帰せられた作品の文体が違うことから、作者の仮託が疑われ、したがって添書の信憑性に疑問が生じるなど、この問題の複雑さを知ることとなった。 (3)マレーシア大学や国内外の博物館で「もの」を見るのは、上記(1)のテキストからの情報収集に時間を割いたため、かなわなかった。ただし、さまざまな「もの」に関する書籍は徐々に集まり、関連知識は広まっている。 (4)共同研究に参加し、いくつかのアイデアを得ている。われわれ文献学者は、文献に現れたことだけを典拠としがちだが、例えば、考古学の成果によって、文献に現れない東アジアとの海上交易が実証されるというようなことがある。
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