本研究は中国語と漢字の関係を本質的に追究すべく、その関係について初歩的な解答を与えるために、表音文字による中国語書写の歴史を辿り、言語的及び社会的両面からその特質を探ることを目的とする。この目的を達成するため本研究では、資料として一定のコーパスを確保し得る四つの事象について、それぞれの歴史的経緯を検証したいと考えている。本年度は次のような研究を行った。 (1)9・10世紀敦煌におけるチベット文字使用につき、再検証を行い、関連する課題について学会発表を行うとともに、総説的論文1篇を公刊した。(2)またプロテスタント宣教師のもたらしたローマ字使用について、昨年度台灣台南市の長榮中學、台南神學院、國家台灣文學館において収集した各種の極めて豊富な材料の整理を進めるとともに、宣教師の伝記や報告などとすり合わせを行うことで、ローマ字使用の実態解明に大きな進展があった。(3)器物に残るパスパ文字資料の収集を行い、その音写形式と『蒙古字韻』などの表記との比較を行った。これはパスパ文字使用の広がりと偏差を考える上で大きなヒントとなる。(4)中国甘肅省南部の回族地域の中心地である臨夏のモスクにおいて、いわゆる「小兒錦」の学習班を見学し、その使用実態を詳しく検証するとともに、小兒錦で書かれた資料を多数収集した。現在その整理と分析を進めているところである。
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