ケンペルの著書『今日の日本』(ドイツ語新版)に基づき、ケンペル日本論の分析を行った。日本論の分析は、3年の研究期間中継続して行われるが、18年度はケンペルが日本の宗教について論じた部分(第3巻)を集中的に検討し、この巻においてケンペルがどのような宗教論を展開しているか、また後世の編集者であるドームが、ケンペルの日本宗教論をどのように書き換えているかという問題について、文献対比の方法により調査を行った。その結果、ケンペルが日本の宗教に対して好意的な評価を与えていること、それに反し18世紀の編者であるドームは、日本の宗教に対するケンペルの好意的な評価を多少弱めるように書き換えた上で編集を行ったことが明らかになった。 またケンペルの伝記的事実について、主にBodart-Bailey教授の研究に依拠しつつ、来日以前のケンペルがどのような関心を有していたのか、またどのような経緯で来日したのかを調査した。その結果、ケンペルは当初より日本を目指していたのではなく、むしろアジア全般に興味を有していたこと、そしてペルシャおよびインドで、はかばかしい研究成果が得られなかったことから、日本を研究の目的地に定めた事が明らかになった。 18年度はさらに、ケンペルが日本の大都市をどのように見ていたのかという問題について、おもに京都と大阪(当時の表記で大坂)を中心に現地調査を行った。とくに京都に関しては、ケンペルが訪問した京都の寺社を研究代表者が訪問し、ケンペルが『今日の日本』で記載している内容の真偽確定のための写真撮影・実地調査を行った。その結果、ケンペルの記載に信憑性があり、17世紀の爾余の日本論(多くは空想に基づく日本紹介を行っている)とは異なり、彼の日本論が非常に学術的価値の高いものであることが確認された。
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