中唐文学の顕著な特徴として、男女の恋愛を肯定的に評価する「風流の美意識」が確立し定着した点を挙げることができる。本研究は、その中心的役割をになった白居易や元槇の文学作品、就中「長恨歌」や「李夫人」「鴬鴬伝」が、宋詞や元曲など、恋愛を主題とする「その後の中国古典文学」に多大な影響を与えたことを明らかにしようとするものである。また中唐の「風流の美意識」は、奈良から平安にかけての国文学史の展開にも多様な影響を及ぼしたが、中でも、『伊勢物語』から『源氏物語』に至る、所謂「色好み文学」の形成と主題の深化に本質的な影響を与えていたことを論証する。さらに、馬致遠の元曲『江州司馬青衫泪雑劇』の本格的な訳注稿を完成させることも、本研究の目的である。
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