敦煌出土の唐五代写本には未だに膨大な未解読の文献が残されている。とくに『金蔵要集論』(北京蔵8407等)や『諸経雑縁喩因由記』(北京8416等)などの説話文学資料は中国文学研究と日本文学研究の狭間にあって見落とされがちな文献であるといえる。本研究では、そうした文献について、調査、翻刻作業をおこなっている。 具体的には、『衆経要集金蔵論』、『諸経雑縁喩因由記』、『捜神記』、『孝子伝』及びその関連文献に対し、公開されている写真資料ばかりではなく敦煌写本を所蔵している研究機関に実際に赴いて原典写本資料の調査をおこない、より精度の高い翻刻をめざしている。また、敦煙・トルファン写本のなかには『衆経要集金蔵論』、『諸経雑縁喩因由記』のほかにもこれらの説話文献を説唱のために書き写した手稿本が多く残され、文学史上きわめて重要であると考えられるが、本研究では、そうした写本も現地研究機関において調査研究をおこない、新たな文献の発見にも成功している。 翻刻作業においては、昨年度に引き続き中国首都師範大学歴史系スタッフと浙江大学古籍研究所の研究協力者の協力を得て作業を進めている。こうして日中研究者の協力によって作成された翻刻資料は、記録媒体として従来の紙によるもののほか、同時に電子資料をも作成しつつあり、今後も他の研究者の役に立てていきたいと考える。
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