本年度の成果としてはおおよそ次のふたつに要約できる。 1.モンゴル国ウランバートル市でおこなわれた国際学会(The 9^<th>International Congress of Mongolists Devoted to the 800^<th> Anniversary of the Yeke Mongol Ulus)で発表をおこなったことである。そして、この国際学会で発表したことを言語文化学会の学術論文集「言語文化学会論集」第27号に掲載できたことである。このタイトルは、「謎々における馬-モンゴル英雄叙事詩の隠喩研究の補完として」であり、一見したところ、『元朝秘史』とは無関係にみえるが、じっさいには密接な関係がある。なぜならば、本研究の対象である『元朝秘史』を解明していくうえで、モンゴルにおける動物のメタファー研究は不可避だからである。とくに、馬(午)は、モンゴル英雄叙事詩において唯一ともいえる擬人的形象であることをかんがみれば、この問題を丁寧に掘り下げておくことは、『元朝秘史』に含まれる「午年」の考察に欠かせない。実際、『元朝秘史』における「午年」は、英雄叙事詩上におけるメタファーの延長上にあらわれているものと考えられるので、謎々と英雄叙事詩というフォークロア上の関係性を整理しておくことは重要な作業である。いずれにせよ、両ジャンルのメタファーは一見相矛盾するかにみえつつも共存しうる性質のものであることが判明したので、結果的にみれば、本研究の路線の妥当性を示しつつあるものとして評価されるものと信じる。 2.本年度の研究は、十二支のメタファーに関連して、モンゴルに浸透している十二支観念を深く掘り下げるため、易学的知識を身につけることを重視した。易学専門家に教授を乞うたことで、この方面の知識をすこぶる得ることができたことは、歴史学とは異なる『元朝秘史』の時間観念をこれから展開するうえで非常に大きな収穫であったといえる。
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