研究概要 |
博士論文「寓意としてのアレクサンドロス-イスラーム古典期における信仰と歴史意識において」(19年に博士号取得)の修正・加筆作業を進め、科学研究費研究補助金研究成果公開促進費(学術図書)の交付を得て、名古屋大学出版会から『アレクサンドロス変相-古代からイスラームへ』と題した著書を2月に刊行した。イスラーム勃興からモンゴルの侵攻までの時代(7〜13世紀初め)のアラブ・ペルシア文学における時系列的な世界観の変遷と空間的・地理的な世界観の拡大の関係を明らかにしている点において、本研究課題の土台となる考察がなされている。 フランス・ドイツでの資料収集、成果発表、研究交流を本年度も行ったが、特に、ドイツのマールブルグ大学で開かれた国際ワークショップ「文化・商業・人の移動の十字路-大陸と海のシルクロードの比較」("Crossroads of Culture, Commerce, and Human Movement:Continental and Maritime Silk Routes Compared")に参加し、中国の文献に表れるアレクサンドロス伝承の断片について発表できたことは意義深かった。アメリカ、ドイツ、スイスなどから中央アジアや中国の歴史・美術・考古学の専門家が参加しており、西アジアと東アジアを結ぶ交易、巡礼・布教活動、学術交流、政治などの移動ネットワークの歴史的文脈の解明につながる、興味深い議論が交わされた。この学術交流を通して、今後ヨーロッパや東アジアの文学との比較しながら、本研究を国際的に展開させてゆくための方向性が見えてきた。
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