アラビア語・ペルシア語の関連一次資料を、国内外の図書館で調査し、アレクサンドロス伝承の中に登場する「異形」の表象を収集、翻訳した。同時に、西アジアにおける交易、巡礼・布教活動、学術交流、政治などの移動ネットワークの歴史的コンテキストを解明し、同地域における地理学・地図学の発展を追った。イスラーム世界の拡大とともに、統治や旅行のために必要な情報が9世紀後半の頃から地理書にまとめられるようになり、さらに中央アジア、インド、中国あるいはアフリカといったイスラーム世界の辺境の地に対する好奇心、知識欲も増大し、「驚嘆の書」の類もあらわれた。これらの作品の中でアレクサンドロスは、かつて異郷の地に関する情報をもたらした偉人という重要な文学的なトポスとして繰り返し登場する。本プロジェクトの成果は、本年7月にイギリスのエクセター大学で行われるアレクサンドロス伝説関連のシンポジウムで口頭発表する。さらに、論文として『西南アジア研究』に発表する予定である。 さらに本研究では、先行研究をふまえて、ヨーロッパや東アジアの文学との比較をする際の方法論的枠組みを検討するとともに、この課題を今後さらに学際的な共同研究として発展させるために、国内外の研究者とのネットワークを強化するよう努め、日本、フランス、ドイツ、イランなどの研究機関で進められている具体的なプロジェクトとの連携を探ってきた。その結果、本研究を拡大・発展させた新規の研究課題の構想をまとめ、「中東およびヨーロッパにおける驚嘆文学の比較文学的研究」と題して、科学研究費補助金(基盤研究(B))の交付を受けることが内定した。 なお、本研究期間中に刊行した拙著、『アレクサンドロス変相-古代から中世イスラームへ』(名古屋大学出版会、2009年)が島田謹二記念学芸賞を受賞した。
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