平成19年度には、次の研究を遂行した。 1.『元朝秘史』テキストのデータ入力。四部叢刊影印本を底本として、『元朝秘史』のモンゴル語を表記した漢字の本文(音訳)と、本文を構成するそれぞれの単語や語尾の傍らに逐語的に付きれている漢語(傍訳)を計算機に入力し、電子化テキストを作成した。すでに作成済みのローマ字転写テキストと合わせて、相互に検索・参照が可能なテキストとなっている。これに基づいて、『元朝秘史』の漢字音訳モンゴル語、ローマ字テキスト、傍訳漢語、出現位置からなるデータを互いに関連づけ、縦横に検索が可能なシステムを作成し、研究に使用している。こうしたデータとシステムは、研究成果として公開することを計画している。 2.漢字書き分けの問題の研究 電子化テキストに基づいて、『元朝秘史』でモンゴル語を表記するのに用いられている全漢字の使用状況を調査して、「意味を考慮した漢字の使い分け」の実態を明らかにした。また、『元朝秘史』と同類の『華夷訳語』(甲種本)の同音漢字の書き分けにおいても「意味による書き分け」があることを明らかにした。 3.『元朝秘史』の異本の研究。研究協力者の特木爾巴根氏の協力により、十五巻本『元朝秘史』の未公刊の異本である馬玉堂抄本および南京図書館所蔵抄本の影印を得ることが出来た。これらの異本については現在研究協力者とともに校訂作業を進めている。
|