研究概要 |
本研究は、中国東南地域のさまざまな方言の文法を詳細に記述・分析することによって、北京語のみを研究対象とする従来の中国語学が看過してきた新たな言語事実を発掘し、「文法化」のプロセスを解明する試みである。今年度の研究成果は大きく二つに分けられる。 一つは、台湾桃園県の客家語の記述的研究である。『東南方言比較文法研究-寧波語・福州語・厦門語の分析-』(好文出版,2002年)で整理した31の文法項目に基づいて用例を収集するとともに、近隣の福州語や厦門語との共通点と相違点を明らかにした。 もう一つは、授与動詞を用いた受動文の構文的性質の解明である。東南地域では授与動詞を用いた受動文が広く観察されるが、この種の受動文がなぜ北方地域に少なく、東南地域に多いのかという問題について、文法化の観点から理由付けを試みた。東南地域のさまざまな方言データを基に、授与動詞から使役標識、そして受動標識へという文法化のプロセスが最も有力であることを示した上で、このような文法化が東南方言に集中している原因は、放任使役を表す使役標識の不在にあることを指摘した。
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