研究概要 |
フランス語と日本語の名詞句の用法の大きな違いは,冠詞のある・なしである,この違いが名詞句の使用や,意味論に及ぼす影響は非常に大きく,フランス語名詞限定表現の習得を困難にしている.ところが,これまでの冠詞論では,冠詞は,他の名詞限定表現(指示詞,所有形容詞など)と切り放して研究されることが多かった.しかし,この方法での日本語名詞句使用との比較は有意義ではない.フランス語と日本語の名詞句使用の違いを明確に理論化するには,名詞限定表現のシステム全体を考察する必要である. 本研究では,日本語とフランス語の名詞句全体の用法を視野に入れ,その全体の中である特定の名詞句がそのどの用法を担っているかというシステム内の役割分担を考える.さらに,名詞句の機能を背景で支える知識ベースに目を向け,それぞれの名詞句が知識ベースとどのような関連をもつかを考え,包括的な名詞句理解のモデルを構築する.ここで問題になる,談話処理を背景で支援するこの知識ベースは,一般的知識,発話状況についての知識,先行談話に対する知識の3つのデータベースから構成され,さらにこの最後の談話処理記憶は,短期言語データ記憶,談話理解記憶,長期談話記憶に細分化される.こうした知識ベースに助けられることで,名詞限定表現は,十分は働きをすることができる. こうした名詞句の談話処理モデルから,定冠詞で限定されたフランス語名詞句(定冠詞句と呼ぶ)と限定表現がつかない日本語名詞句(裸名詞と呼ぶ)との対応の詳細を記述・分析する. この考え方により,日本人フランス語学習者にとりフランス語限定表現の習得がなぜ難しいかを明らかにするための基礎的研究を行った.
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