本年度は中国で発行された言語資料の収集・データ化及びその分析作業を行った。データ化においては、近代白話小説作品のテキストデータを作成し、それを利用して検索作業を行った。特に注目したのは基準を抽出する機能を持つ量詞「個」の使用である。現代の中国語普通話において、「算人」「算個人」「是人物」「是個人物」「是事」「是個事」「不是東西」「不是個東西」「是時候」「是個時候」「像様」「像個様」「不像話」「不像個話」のように「個」を含む形と含まない形が併用されている。しかしそれらの使用頻度には差異があり、差異を生む原因は何かということが問題になる。明清時代から現代までの言語資料を分析した結果、「個」の使用は「ある基準に達した個別の事物を想定できるか」という意味的・または語用論的要因に動機づけられており、とかく指摘される音節数は重要な要因とは認められないという結論を得た。 また本年度は「動詞+A+個+B」という文法構造における「個」の機能の研究にも着手した。現代の普通話では「動詞+他+個+B」という文法構造で「他」はoptionalだと説明されているが、近代中国語ではこの文法構造を用いてtransitivityが高い動作からtransitivityが低い行為まで表現していくことができ、しかも「他」も「個」もほとんど義務的に使われている。近代中国語を出発点として再度現代の普通話を見直すと、後者で「動詞+他+個+B」が使われるのはtransitivityが高い動作においてであることに気づかされる。ここから、文法化された「個」や「他」の成立がtransitivityと深いかかわりを持つという知見を得ることができた。
|