20年度は本研究の最終年度にあたり、データの分析を通して、現代普通話につながる量詞「個」の多機能性を中心に研究を進めた。その結果、以下のような知見を得た。 (1)現代普通話に見られる「個」の多機能性を、長期にわたる「個」の文法化の結果であると単純に考えることは、必ずしも妥当でない。明清時代においてすでに意味が希薄な「個」が大量に使用されていたが、その一定部分は現代普通話には継承されていない。 (2)明清時代に多用された「動詞+他+個+A」という文法構造においてAには多様な要素の使用が許され、現代普通話の規範文法の分析に従えば、述賓構造、述補構造のいずれの解釈も可能であり、「他+個+A」を主述構造と解釈することもあり得る。 (3)中国語では普通名詞と固有名詞に「個」の付加が可能で、人称代名詞は「個」を排除する。このことは、中国語の名詞類において、固有名詞は代名詞より普通名詞に近い文法的性格を有することを示唆する。 (4)現代普通話では「動詞+他+個+A」の文法構造及び意味機能は明清時代より限定的になている。このことは、現代中国語の持つ分析性・厳密性と深くかかわっている。現代普通話には同一の形式が複数の文法構造に解釈されるのを回避する傾向が認められる。 同様の知見は現代普通話においてしばしば規範的であるかどうか問題とされる他の文法構造、例えば「把」字句、方向補語と賓語の語順等にも適応可能であり、今後は現代普通話の多様性は明清時代から一定の取捨選択を経た結果であるという視点からの研究を深めたい。
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