メディア・リテラシーの一貫として、新聞投書を取り上げ、教育的な活用に向けて、初年度は、まず、基礎的な調査に重点を置いて行った。一つ目は、新聞投書の文体や内容等に関し、この10年間の変化について、その調査対象を拡げつつ、また、分析項目もより詳しいものにして、分析した。これは、10年間という期間において、書き手の性との関わりで、ある一定の傾向(例えば、文体であれば、「です.・ます体」は女性が男性より使用する)はあるものの、新聞社によって、また、時期に応じて、変化していることが分かった。これは、性別役割分業が少しずつ変化し、男女がそれぞれ互いの領域に関わってきていることによるものと思われる。 二つ目に、これまで行なってきた新聞投書を用いた性別判断調査の判断結果を、総合的に検討したことである。投書の文体や内容、また、論理構成等に対して、調査協力者の中にある一定のジェンダーステレオタイプが存在するのは確かであるが、ここ10年間の社会的変化(例えば、男女共同参画社会の推進やジェンダー教育の浸透等)に伴って、それらをめぐるイメージが弱くなってきている、もしくは、変化していることを示す結果もでてきている。つまり、社会の変化は、新聞投書やそれに対するジェンダーイメージに大きな影響をもたらすことが分かった。 これらの結果については、さらに検討を加え、論文にまとめる方向で準備しており、また、今年7月にスウェーデンで開催される国際語用論学会で発表することになっている。 上述した2点については、さらに、英国で調査を行い、新聞投書に対する意識調査や新聞投書の書き手の性や内容との相関関係をめぐる日英比較を行うことができたことは大きな収穫であった。英国では高級紙、日本では全国紙を調査したため、その新聞の社会的機能に差があることを確認しながら、比較して見えてきたことは、英国では、新聞投書はより新聞紙面の記事に関わらせて投稿しており、また、肩書きのある人が書くことが多いのに対して、日本では、直接新聞の記事に関わらないもの(例えば、身辺雑記など、エッセイタイプのものなど)も投稿され、また、書き手は主婦や小学生も含めた、様々な立場、職業などを持っている人がいる。 日本国内での調査・研究と外国との比較については、2年目以降も、さらに展開していき、新聞投書の教育的な活用をより実効性のあるものにしようと考えている。
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