研究概要 |
1.ロシア所蔵アビダルマ論書の断片を調査整理し、それらを大英図書館所蔵の大部の写本「アビダルマ倶舎論実義疏」及び近年中国で出土の4点のアビダルマ論書断片と比較検討した。その結果、中国所蔵中の2千行近い行数をもつ一点は大英図書館所蔵本の内容と重なり合うだけでなく、元は同じ原本に由来することがわかった。残りの中国所蔵の断片は抜粋形式で書かれており、これらが翻訳原典である漢語を訳読するために作られたこともわかった。ロシア所蔵の断片類の大きな部分は他の論書とは異なり、「入アビダルマ論」の注釈である。しかし、これを含めてウイグル文アビダルマ論書が言語面においては、仏教用語、構文構成法、音韻全ての面において同じ特異な特徴を示すことがわかった。このことはウイグルにおけるアビダルマ研究が同一仏教集団に所属する僧によって行われていたことを示している。これら研究成果の一部は"Uighur Abhidharmakosabhasya-tika Tattvartha preserved in China"で議論し、大半は出版準備中の『ウイグル文アビダルマ論書の研究』で扱う。さらに、スヴェン・ヘディン・コレクションには「アビダルマ倶舎論」(2000行)と100行を超える「入アビダルマ論」の存在が新たにわかり、その研究も開始した。 2.ロシア所蔵品中にはAbitakiとよばれる仏典断片が十数葉ある。同種の仏典はベルリンコレクションとイスタンブルにも存在するのでそれらを合わせてP.Zieme氏と共同研究を行い、その成果を単行本A lost Chinese Book of Pure Land Buddhism in Uighur Translation, BookIVとして出版を準備している。内容は浄土仏教に所属するものでその一部は漢文高僧伝中に見られる。漢字音による固有名詞が多数含まれており、ウイグル漢字音研究に役立つ資料でもある。
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