研究概要 |
ビルマ語は12世紀以降の文献をもつ。パガン期の碑文などの古ビルマ語(OB)(12-13世紀)とインワ期の豊富な文学作品(15-16世紀)のビルマ語との間には綴り字法のうえで大きい差異が認められることは、すでによく知られている。この差異は音韻変化を反映したものである。ビルマ文語(WrB)は、その原型が15-16世紀インワ期に形成され、徐々に変遷を重ね現代の文語が成立したものと考えられる。ビルマ語最初の散文文学paaraayana vatthu(彼岸への道物語[P])(1511年)とコンバウン期のratanaa kre: muM nan: twang: jaatto krii:(宝の鏡宮廷戯曲[RK])(1750年代)に次のような特徴がみられる。(1)動詞文の文末形式/現実法(realis)[P]-i.(<OB.-e')優勢,-sany無,-sa tany散見;[RK]-i.,-sany両用(最後の2章[1800年前後に付加]では-sanyが圧倒的),-sa tany有(2)同/非現実法(irrealis)[P]-aM. sany,-aM. sa tany,-lataM.(<-lat aM.)有,-many全無;[RK]-many,-aM,も有るも僅か(3)助詞/?強調-tany:[P]文中・文末に頻出,OBにも有,現代WrBで文中では無(4)口語用法[RK]杏定文の文末形式-bhuu:,累積の相助動詞-uM:が地の文に現れる(5)パーリ仏典逐語訳文体(nissaya Burmese)[P]与格助詞-aa:,伝聞の文末助詞-sa tatなど(6)[P]saTHe:"富豪"パーリ語借用形式[RK]suuTHe:緬巴混淆語(7)[P]samudraa"大洋"梵語借用,現代文語samuddaraa(梵巴混淆借用,巴samudda)12,16,18世紀のビルマ語には様々な変遷のあとが見られるが、全体としてビルマ語が辿った変化は極めて緩やかなものであったことが分かった。
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