平成21年度は、研究の総まとめとして、これまで収集した台湾原住民諸語に関する文献資料および言語資料の整理と分析を行った。特に、台湾原住民諸語の中でもフィリピン・タイプのフォーカス体系を持たず、他の諸言語に見られる能格性と対照的に、対格型に近いヴォイス交替を示すルカイ語を中心に分析を行った。その中で、典型的なフィリピン・タイプのフォーカス体系を持つ他の台湾原住民諸語およびフィリピン諸語、またフィリピン・タイプに近い体系から対格型に近い体系まで様々なタイプが存在するインドネシア諸語などについても概観し、これらの言語を統一的に捉える枠組みについて理論的な考察を行った。具体的には、上記のようなルカイ語の特異性に関して、従来は、フィリピン・タイプのフォーカス体系を持ち能格性を示す他の台湾原住民諸語やフィリピン諸語とは異なるタイプとして捉えられてきたルカイ語のヴォイス体系は、インドネシア諸語のパリ語などに見られる縮小されたフォーカス体系と類似していることから、台湾原住民諸語、フィリピン諸語、インドネシア諸語などのヴォイス体系を統一的に捉えることが可能であると考えられる。今後の課題としては、フィリピン・タイプのフォーカス体系が縮小などの変化を起こす際の動機や方向性について、より多角的に考察していく必要がある。なお、平成21年6月に開催されることとなった第11回国際オーストロネシア学会(The 11th International Conference on Austronesian Linguistics)で、成果の一部を発表した。
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