本年度は、実験設備の設置や整備、予備的実験を行い、空範疇と先行詞の依存関係成立へのワーキングメモリや語順などの影響について、行動指標を用いた実験を行った。 予備的実験では、リーディング・スパン・テストとリスニング・スパン・テストを作成した。 本実験では、関係節の主語または目的語がヘッドになっている関係節付加曖昧名詞句が主文の直接目的語である文を用いた。ヘッドになる項の種類や、関係節付加曖昧名詞句の主文での語順を変えることで、文処理に必要なWM容量を変化させ、先行詞選択への影響について調べた。かき混ぜ語順の方が基本語順よりも多く高位名詞句を先行詞に選択する傾向が見られた。この結果から、語順の違いによって実験文の処理に必要なWM容量が変化し、空範疇と先行詞との依存関係成立に影響することが示唆された。 実験材料を処理するのに必要なWM容量の影響を調査したので、被験者間のWM容量の違いが、空範疇と先行詞の関係成立に影響するかどうかについても調査した。リーディング・スパン・テストの得点と先行詞の選択傾向を比較した結果、高スパン群の方が低スパン群よりも、多く高位名詞句を選択する傾向が見られた。 かき混ぜ構文の処理はコストがかかることが報告されているが、かき混ぜ詞の種類やサイズによっては、基本語順の文と比べて文全体の処理コストは必ずしも大きくならない可能性が示唆された。日本語の関係節付加曖昧名詞句では、空範疇の後に先行詞が現れる。実験結果から、そのような場合にもWM容量が依存関係の成立に影響することが推測された。 この研究成果の一部は、平成18年8月の広島大学のセミナー、12月の高知大学の研究会で報告された。また、平成19年7月に行われる国際学会(The Japanese Society for Language Sciences 2007)で発表する予定である。現在国内の学会に投稿中のものある。
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