本研究の当初の目的は、語法資料として『国語』(本文及び韋昭注)を取り上げ、二重目的語文、使役文、受身文など、代表者がこれまで取り組んできた語法項目の調査・分析を行うことにあった。『国語』は、戦国中期以前の語法資料として、成立時期が近いとされる『春秋左氏伝』とともにしばしぼ取り上げられる。しかし一方で、『春秋左氏伝』に比べて口語性が高いといわれ、二十一篇ある篇の間には成立年代の差異がみられることも指摘されている。また、『国語』本文とその注釈である韋昭注(韋昭は三国・呉の人)との記述・表現の差異は、語法史的に重要な意味をもつ。すなわち、『国語』本文では使動用法となっているところが、韋昭注では使令兼語式で記述されていたり、二重目的語文となっているところが単一目的語文で記述されていたりするなど、興味深い現象が少なからずみられる。 『国語』は、先秦から六朝初期の語法研究にとって利用価値の高い資料である。しかし実際に語法資料として扱おうとすると、まずテキストや版本の問題に突き当たる。 伝世文献を対象にした語法研究の信頼性を高めるためには、版本の問題を避けて通ることはできない。『国語』には、明道本(宋の明道二年[=1033年]刊)と公序本(宋の宋公序補輯本)の二系統の版本が存在しており、その成立及び伝承の過程に関しては、いまなお多くの課題が残されている。本研究では、所期の語法研究に先立ち、『国語』の版本をめぐる様々な問題に取り組んだ。具体的な成果としては、清朝における公序本と明道本の受容及び伝承、明道二年本の重刻の過程、現存するテキストの状況を明らかにするなど、語法資料としての基礎的整備を行った。
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