本研究の目的は、連続発話における文間(文末)・文中ポーズ挿入とそれに伴う発話調節の詳細を明らかにすることである。研究代表者による一連の先行研究から、単独発話における文中ポーズの実態が明らかにされてきているが、本研究では、これらの知見をもとに分析対象をさらに連続発話へと広げ、より大きな発話単位の産生において、発話とポーズが、また文間ポーズと文中ポーズが、互いにどのように影響を及ぼし合うかを明らかにすることを目指した。 平成18年度は、文中ポーズと文末ポーズによるpre-pausal lengthening(ポーズに先行する発話部分の伸張)を比較し分析した結果、両者ともポーズに先行しない場合との比較結果は有意だったが、両者間におけるlengtheningの差は有意ではなかった。ただ、文末ポーズによるlengtheningは、文中ポーズによるlengtheningと比べて、ばらつきが大きいという結果が得られ、文末は文中と比べて発話のリズムの制約がより少ないことを示唆するものと考えられた。 平成19年度は、複数の文からなる連続発話(パラグラフ)を対象として、文中ポーズの挿入が文間ポーズや発話部分にどのような影響を及ぼすかについて分析した。その結果、文中ポーズの挿入によって文間ポーズ長は変化すること、また変化の方向(より長くなるか短くなるか)については個人差があることなどが明らかにされた。文中ポーズと文間ポーズは、本来それぞれ独立にコントロールされうるものであるが、今回の結果から、文中ポーズの挿入という局所的な発話の調節が、文間ポーズ長の変化という、より大きな発話の範囲にかかると考えられる調節に関与しうることが明らかになった。 本研究の成果は、基礎面では発話産生理論の構築に対して、また応用面では、たとえば工学分野で改良が進んでいる音声応答システムにおいて、よりユーザが理解しやすい合成連続発話の実現に対して、有用な知見を提供でき、学術的かつ社会的な意義が大きいと考える。
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