日本語の近代語彙(和製漢語/新漢語)が中国語や朝鮮語に与えた影響についてはすでに多くの研究成果が見られる。しかし、漢字圏以外の国や地域、とりわけ、20世紀前半に中国と日本の政治的、文化的影響が強かった「内モンゴル」(現在の中国、内モンゴル自治区)ではモンゴル語語彙の近代化がどのように行なわれてきたのか、この問題は学界では最近までほとんど考えられていなかった。本研究は、早期のモンゴル語定期刊行物など数多くの一次資料を収集、分析することにより、日本の和製漢語を含む漢語の影響下におけるモンゴル語近代語彙形成--漢字語からの意訳語の成立、または、淘汰した歴史的過程を考察するものである。 平成18年度は、中国の北京、フフホト、上海及びモンゴル国で資料収集を行ない、これまでの研究成果を土台に、モンゴル語近代語彙の登場にとって母体的な存在である『蒙話報』(Mongч ul usug-un bodurul)という「蒙漢合壁」雑誌における語彙の分析を行なった。 具体的なには、昭和女子大学近代文化研究所『学苑』誌(787号)に「モンゴル語近代語彙登場の母体--『蒙話報』誌(五)--近代語彙の抽出・分類及び存廃の時代別考察--」という論文を発表し、モンゴル語近代語彙を抽出するに当たり、本論では「近代語彙」についての視点とモンゴル語近代語彙の弁別に臨む考え方を述べ、『蒙話報』誌の23冊に含まれる中国語の見出し語844語をさらに分野ごとに七つの部分に再分類した。それから、見出し語の比較と訳語の存廃について、その後の各時代の代表的な辞書や語彙集と比較し、その結果を分析している。
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