交付申請書の「研究の目的」に記載した中では「日本語の研究者(とくに日本人)に対しては、訓読み表記の多様性について具体的に認識してもらえるような成果を出す」、より具体的に「本年度の研究実施計画」で「研究の概要を示す予備的な報告を、この年度中に発表したい」と述べた部分について、裏面に記す論文「世界の訓読み表記」を発表することができた。 この論文において、世界の訓読み表記について、初めてまとまった概観を与えることができた。日本の研究者はごく散発的に楔形文字のアッカド語におけるシュメル語詞の訓読みや中期ペルシア語におけるアラム語詞の訓読みについて触れることはあっても、総覧するような成果はこれまでなかった。 「訓読み表記を分類する視点」として挙げた「1.訓読みされる母字の性格」「2.訓読みする言語と母字の言語との関係」「3.訓読み表記は、新たな文字セットを創出する際の造字法の一つなのか、母字の文字セットを(基本的には)そのまま用いるのか」「4.3言語以上が関わるか」「5.訓読みの母字部分に関して、その変化形が訓読みの母字部分に反映されているか、それとも母字部分は一つの形に固定されているか」「6.訓読語詞(あるいは音読語詞を含めて)弁別記号の有無」「7.訓読みと音読みが併存するか」「8.文中での訓読語詞の比率が、非常に多いか、多いか、少ないか、ほとんどないか」「9.品詞などにより、使用頻度等が異なるか」「10.文訓読が行なわれるか」「11.表音補辞(送りがな)の使われ方」「12.史料の種類により、使用頻度等が異なるか」は、今後の研究の指針となるであろう。
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