本研究の内容は二つに大別される。第一に、現代の言語活動(特に書き言葉)の諸相を考察する。特にミックスコード(中国語と英語の混合語)を中心に、イギリス植民地から中国という社会的構造の変化は、言語活動にどのような影響を与えたのかを分析する。第二に、大きな社会変化を経た香港人の、広東語(母語、日常生活の言語)、英語(かつての統治者の言語であり、今なお公用語)、普通話(回帰した中国の共通語、書き言葉としての公用語)それぞれに対する心理的態度を明らかにする。中でも特にミックスコードへの意識変化の可能性を追求する。 本年度は、第一の内容に関連して、まず、香港の言語、社会とマルティリンガリズム(多言語使用)に関する基本的な知識を入手するために、関連する書籍と雑誌を収集した。次に、12月と2月の2回香港を訪れ、ミックスコードの分析資料、主として(一般人に読まれている)大衆的な雑誌と中国語新聞を収集した。現在、分析中である。第二の内容に関しては、返還後の香港人の、広東語、英語、普通話それぞれに対する心理的態度について、ある香港人にインタビューを行った。その結果、「返還後社会と言語に関する最大の変化は学校教育だ」という新しい知見を得た。そこで、香港人の言語に対する心理的態度を明らかにするには、学校教育において、広東語、英語、普通話がどのように教えられているかを明かにすることが必要であると考えるようになった。2月にはある政府立小学校にその参観と教師へのインタビューを申し込みに行った。5月の訪問に向けて今、交渉中である。同時に、学校現場におけるミックスコードの意義についても分析するつもりである。
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