研究概要 |
平成18年度は、知覚実験を行い、その結果を分析した。日本語の母語話者4名の発話を録音し、知覚実験の音声刺激として用いられるよう、編集した。実験する項目は、日本語の促音、撥音、母音、子音である。促音と撥音については、/CVQCV/,/CVNCV/の語末の/CV/を削除し、促音、撥音が語末に現れる音声刺激を作成した。母音については/hVdV/,/kVdV/の音節構造で発せられた日本語の語と無意味語の語末の/V/を削除し、/hVd/,/kVd/の構造の音声刺激を作成した。子音の音声刺激は、実在する日本語の語を発したものをそのまま用いた。日本語の母語話者とアメリカ英語の母語話者の日本語の音声知覚を比較するため、海外共同研究者の協力を得て、アメリカ国内の日本語学習歴のないアメリカ英語の母語話者12名と日本国内の日本語の母語話者13名を被験者とした。日本語の促音と撥音の調音点は後続の音に逆行同化して変化するが、日本語では母音の後に子音は起こることが少なく、撥音の調音点の違いも異音によるものであるが、英語では母音の後に子音が起こることは一般的で、母音の後の子音の調音点の違いは音素対立をなす。そのため、アメリカ英語の母語話者は、日本語の学習歴がなくても、母語で用いている方略を使うことによって促音と撥音の調音点を同定できると予想された。同時に過去の研究課題で使用したアメリカ英語の音声刺激を用いて英語の語末の閉鎖音の調音点の同定実験も行った。その結果、撥音の調音点の同定実験では、アメリカ英語の母語話者は日本語の母語話者よりも高い正答率を示したが、促音に関しては、必ずしもそうとはいえなかった。同時に行ったアメリカ英語の語末の閉鎖音の調音点の同定実験では、アメリカ英語の母語話者は高い正答率を示した。これは、鼻音の生成に関しては日英語で共通点が多いが、母音からその後の子音への移行は、英語と日本語の促音では違いがあり、母語で用いている方略が有効でないことが考えられる。母音の実験は、日本語の母音に最も近いと思われる英語の母音を選ばせる実験を行った。同時に日本語話者の被験者にはアメリカ英語の母音の同定実験とアメリカ英語の母音の日本語の母音範疇における知覚同化の実験を行った。過去の実験結果を裏付けるように日本語話者は一般に2モーラの「イー」は英語の/i/に1モーラの[イ]は、/I/を最も近い母音として選び、アメリカ英語の母音についても/i/は母音長が長いほど正しく近くされ、2モーラの「イー」に知覚同化されやすいことがわかった。日本語話者は「オ」に近い母音として/a/を選んだが、/a/は「オ」よりも「ア」に近い母音として知覚されている。日本語母語話者が母音長に影響されるのに対して、アメリカ英語の母語話者は、母音空間の位置関係で日本語と英語の母音を結びつける傾向がつよかった。アメリカ英語話者の日本語の子音の知覚は、日本語の音を英語の綴りで表現させる形を採ったが、細かいデータ分析は19年度に行う。
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