本研究はムンダ語における感情語について、ムンダ語の百科事典であり辞書でもあるエンサイクロペディア・ムンダリカのなかにみちれる感情語を抜き出し、データベース化することが主な目的である。しかし、ムンダ語における感情語の記載がエンサイクロペディア・ムンダリカでは十分でないことがわかってきた。たとえば、同一の感情語として並べられている単語のなかにも、微妙な差が見られたり、母音や子音の差によって意味の区別が想定されるのに、その区別がはっきり記述されてなかったり、記述の不備があきらかになってきた。 そこで、日本在住の唯一のムンダ語母語話者に、エンサイクロペディア・ムンダリカでのムンダ語例を打ち込んでいただき、エンサイクロペディア・ムンダリカでの記述が彼女のムンダ語の例との相違点を明らかにしながら、実際に彼女の村での使用例を打ち込んでいただくことにした。そのため、当初で考えていたよりも時間がかかり、エンサイクロペディア・ムンダリカのデータをすべて打ち込むことができなかった。したがって、エンサイクロペディア・ムンダリカの感情語のデータベース化という意味においては十分な成果をあげることができなかったが、感情語の研究という意味では新たな発見も多く、その結果は論文としてまとめることができた。とくに、母音の相違点と意味の連関を考察できたのはこれまで誰も気がつかなかった重要な成果である。この成果を基に、今後は基盤研究(B)「南アジア諸言語の類型論的研究-南アジア言語領域論の再検討」において南アジア諸言語における感情語との比較研究を行いたいと考えている。
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