本年度は次の3計画に従事し、所期の成果を得た。 1)『物類称呼』版本につき、国会図書館・岩瀬文庫等の所蔵本につき書誌的調査を行い、大坂屋版と須原屋版の複数の版本間の異同を明にした。各巻の名称が、題箋・目次・内題で相違する事実を整理し、項目の選定基準、及び編集方針に考察を加えた。 2)『物類称呼』が記事の典拠としたことが知られている近世本草書の方言記事について整理を加えた。特に力を注いだのは、野必大『本朝食鑑』と寺島良安『和漢三才図会』で、ともに本文が漢文体であるため、対照して調査しやすくするため、関係記事の訓み下し文を作成し、『物類称呼』と対照しつつ整理した。彪厖大な記事量のため、次年度も継続して作業する予定である。 暫定的な見通しだが、本文中に明記された箇所だけでなく、多数の方言記事や記述が、上記2書から引かれている事実を明らかにすることができた。従って、記事によっては、方言記事の年代が100年ほど遡るという新たな知見を得た。 3)本研究で、最も力を注いだ新出資料による典拠記事の発見については、十分な成果が得られなかった。既知の『かたこと』を始めとする「かたこと直し」書については、順次整理が進んだ。しかし、辞書『男節用集如意宝珠大成』については、所蔵元の都合で複写の入手ができず、次年度に見送った。「往来物」にっいては、多数の関係書について調査を進めたが、必ずしも期待した典拠関係を見出していない。調査すべき書が多数あるから、今後も継続して調査を進める。
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