本年度は3年計画の最終年度として、次の成果を得た。 1前年度に引き続き、『物類称呼』が依拠した可能性のある本草書・往来物・辞書類の探索をおこない、向井元升『庖廚備用倭名本草』13巻(貞享元年刊)が貝原益軒の『大和本草』に先立って俗名記事を数多く載せる事実を見出した。同書については従来本格的な検討がなされず、全容の解明にはなお時間を要するが、方言記事との関連を指摘することも可能との見通しを得ている。 その他、辞書『男節用集如意宝珠大成』との記事比較を前年度に続いて行い、先行研究で指摘されていない項目についても、影響関係が認められることを見出した。 2調査によって依拠関係が認められる方言記事を整理し、相互に比較することによって影響関係の解明を試みたが、事実が錯綜していて十分な結論を得るに至らなかった。『物類称呼』を編纂するに際して、越谷吾山の方針は必ずしも厳密ではなかったとの感触を得ている。従って、調査結果に基づく研究発表等の成果を挙げることができなかった。 3研究期間内に調べ得た『かたこと』系統書、『本朝食鑑』『和漢三才図会』、及び『大和本草』以下の本草書類から抽出した方言関係記事を整理して、『物類称呼』本文に注釈として加え、容易に比較対照できる形にまとめた。巻一・二については報告書にまとめた。記事量の多い巻三は整理を終えるにいたらず、報告書に含めることができなかった。後日、別の形で公表する予定である。
|