研究概要 |
(1)モダリティ研究の最先端の状況の把握と展望 従来のモダリティ(ムード)の研究の方法論を検討したうえで,今,日本語モダリティ論はどのような方向に向かおうとしているのか(向かうべきか)ということについて,益岡隆志,澤田治美の最新のモダリティ研究である『日本語モダリティ探究』『モダリティ』を取り上げて考察し,特に益岡の著作を対象とした書評論文を作成した。これらの著作には,方法論的に大きな展開が見られ,一般言語学的な視点の導入や語用論とのリンクによって,モダリティ研究が新たな段階を迎えようとしていることを確認した。さらに,テンス・アスペクト論とムード論のリンクを推進している工藤真由美の最新の研究動向についても把握し,類型論的述語論的な展開と位置づけた。 (2)実行系モダリティに関する記述的研究 本年度は,以下の4部門について研究を行い,その成果をとりまとめた。 1)event modalityの体系化 <まちのぞみ文>や<発動文>のモダリティーは,文の対象的な内容である動作と現実との関係づけ方に関する諸特徴の有機的な統合のなかに成立していて,体系をなしているということ,両者の間に移行が起こるのはそのためであることを論じた。紀要論文として公刊。 2)対話における意志表明 これまでほとんど文レベルでしか捉えられていない意志を表す文について,話し手の意志が対話のなかでどのように扱われるかという視点から,改めて検討を行った。研究発表および論文を準備中。 3)必要を表す文の主観化 <必然・必要>のモダリティー形式としてのシナケレバイケナイの成立が第一段階の文法化だとすれば,短縮形シナケレバは,subjectificationあるいはagent-orientedからspeaker-orientedへという方向に従った,モダリティーの内部での第二段階の文法化であることを論証した。その成果は国際的な学会で発表した。 4)希望の叙述文と依頼文化 シナイデホシイの依頼文としての性格がシテホシクナイに比べて相対的に強いことを,統語と形態,動詞のタイプ,主体,副詞,レアリティー,遂行動詞等の観点から実証し,その成果を,ゼミ生と共同して,岡山大学文学部現代日本語学研究室(2008)『希求の叙述文と依頼文の間-シテホシクナイとシナイデホシイ-』(2007年度言語科学課題演習報告書)としてまとめた。
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