本研究(3年)の初年度として以下の調査・分析を行った。 1 高山寺調査に従事し鎌倉時代の僧坊活動を記録した古文書の調査を実施した。 特に高山寺における僧坊として従来注目されることのなかった「覚薗院」の第一世、義淵上人霊典とその弟子明悟上人の事績を中心に調査を進め、聖教目録の作成と保管に関してこの一群が果たした役割について検討した。全体像は依然として未解明な部分が多いが、初期の聖教目録作成において、明恵上人が指名した、高山寺寺主である定真が中心的な役割を果たしたのみならず、霊典も直接的に目録の作成と整理に関わっていたことが明らかになった。ただ、これが僧坊全体の活動として第二世に継承されているか(つまり学統として受け継がれているか)については、さらなる調査と検討が必要である。 2 高山寺以外の公共図書館や高野山などの資料調査を実施し新たな資料と知見を得た。 特に、高野山大学図書館に委託保管されている、寛永本系統の「高山寺聖教目録」を調査し、写真複製に基づいて検討を進めている。本目録については、江戸時代の書写ながら高山寺に所蔵されている聖教目録との間に異同も見られ、書承関係においては検討に値するものと考えられる。 3 すでに公刊されている「高山寺資料」や原本調査を実施し、それらをデータベース化した。 原本調査においては、新たに一点の目録に着目することとなった。それは、従来も知られていたが、高山寺東経蔵の真言書について記載した「高山寺経蔵聖教内真言書目録」の写本であり、高山寺以外にあったものを調査団が購入し高山寺に納めた資料である。鎌倉時代書写の原本との異同が多くあり、あるいは何らかの改変の実態を伝えるものかとも見られるが、詳細な検討については今後の課題である。 以上の3項目を総合的に分析するために、資料のデータベース化(翻刻を含む)を実施した。
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