本年度は、学術用語における漢字に関する使用の実態を把握し、それらが必要とされた理由についても通時的な観点を加味しつつ検討したうえで、それらの総括を行った。特に一般における漢字使用の目安を示す「常用漢字表」や「表外漢字字体表」において適用除外とされる「科学、技術、芸術その他の各種専門分野」で使用されている表外漢字・表外音訓に関する漢字、さらにそれらによる漢語などの実態を中心として解明し、その背景を探究した。 仮名書き、交ぜ書きや言い換えは減少する一方で、「常用漢字表」にない漢字で、各分野で学術用語の中に使いたいと希望する漢字が増加しつつあり、実際に用語の表記に多数使用されている状況が具体的に明らかとなった。 そこには、字種、用法、表記などのほか、字体の面でも注目すべき事象が数多く見出された。異体字、特に略字が使用されており、それらは、当該専門分野において高頻度で使われる画数の多い漢字であり、関係者が主に筆記経済を求めることで生まれ、その中から年月を経て習慣化した字体といえるものであった。それらは、位相的用法、特に位相的慣用音と合わせて、その社会での用字に体系性を整えようとするものと見なすことも可能であり、新聞や地名等の字体との間で共通点と相違点が確認された。 それらは、各種学会の専門書、専門誌や専門用語辞書の類はもちろんのこと、行政・公用文書、教科書、新聞、雑誌、一般向けの書籍、放送、さらにインターネットなどを通じて、直接あるいは間接的に、一般の言語生活、文字生活に影響を与えていた。「同音の漢字による書きかえ」の作成時にも参照されており、その各方面への影響は実に多大であった。 最新の漢字政策との比較や中国・韓国など他国の用語との比較・対照を通じ、一般との関わりの一層深まる情報化時代におけるこれらの現状と背景、意義と問題点などについても字種、字体、用法などの各面から解明した。
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