研究概要 |
交付申請書では,1.古文書における事物の様子を表す名詞語彙の用例採取,2.その用法の整理,3.他の資料における用法との比較,を計画したが,18年度来,とくに「けしき」という語に焦点を当ててこの研究を実施してきた。 19年度では<「けしき」という用語が,古文書のような実用資料において特徴的に呈する用法上の特色>の明確化と,その要因の解明,具体的には<(1)古文書とその他の資料において「けしき」が使用される場面や文脈に差があるかどうか><(2)差がある場合にはその差が生じる理由,差がない場合には差が生じない理由を明確にすることによって,古文書,仮名文書の資料性を明確にする>という2点の解明を目標に研究をおこなった。 結果,(1)については,諸資料において,「けしき」という語と感受者の動作を表す語との関係や,「けしき」を評価した用例等を多種の文献資料で検討することにより,10世紀以前の「けしき」は,古文書にかぎらず文学資料をも含めた広い資料において,基本的には,生活に根ざした実用的な場面で使用される語であったこと等を明らかにした。その結果は,筑紫日本語研究会ならびに琉球大学での第249回近代語研究会などにおいて口頭発表した上で,『古代の「けしき」の用法-情報としての「けしき」と観賞する「けしき」-』と題して『國學院雑誌』第108第11号)に発表した。 また,(2)については,古文書の資料性を明らかにするために,「けしき」が多用される古文書の奉書における使用傾向(差出人と宛名人,伝達内容など)を詳細に調査した。結果,院宣にかぎらずある程度の高位者の奉書にひろく用いられていること等が明確になり,九世紀の古記録での用法との共通性が推測された。詳細は平成20年度に論文として公開する予定である。
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