19年度の研究で明確になった<「けしき(気色)」という用語が、古文書のような実用資料において呈する用法上の特色>について、<その特色が生じる理由、経過を明らかにする><それをもとに古文書の日本語研究資料としての性質と有用性を明確に開示する>の2点を研究目的とした。具体的には、次の2つの方法で考察を行った。 (1)「気色」が奉書で多用される以前(10世紀以前)に焦点を当てて古文書の用法を検討した。その結果、<「気色」は10世紀以前には特定の古文書の定型的表現として用いられてはいないこと><10世紀以前の古文書の「気色」の用法は他の文献資料とおおむね同様であること>を明確にすると同時に、古文書に特色的に現れた用法として<感受した「気色」を情報として別の人へと伝える例が多いこと>を指摘した。(2008年9月に論文にて発表) (2)10世紀以前の諸文献資料における「言ふ」「のたまふ」「仰す」等の言語での表現と「けしき」との意味的な関係を検討した。その結果、古文書の奉書で「気色」が「仰せ」の意味で用いられる背景には、古文書の日本語資料としての特性(身分に上下がある関係で遣り取りされる、お役所言葉が反映される、言葉そのものではなく内容の要約の記録である、等)が強く関与していることが明確になった。(今年度の成果として発表準備中)
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