研究概要 |
本年度は古英語ウエストサクソン方言訳の福音書のうち、MS CCCC 140,Bodley 441,Cambridge ULC Ii.2.11の転写を行った。思いのほか、細部に関して判断に迷うところがあり、正確を期するために時間が掛かったが、やはりCambridge ULC Ii.2.11の独自性は随所に見られると言って良い。それに関連して、東京大学駒場キャンパスの寺澤盾助教授にお願いし、以前に中世イギリス資料センターとして集めたマイクロフィルムをお借りして、手元のファクシミリでは不鮮明な箇所を確認した。ついでながら、同時期の写本のマイクロフィルムも幾つかお借りし、文字のvariationに関してもチェックをした。6月には、韓国ソウルで開催された韓国英文学会の国際大会で、基調講演としてBoethiusのDe consolatione Philosophiaeの古英語訳に関する散文と韻文のスタイル・語彙・syntaxの違いを述べ、特に散文訳のラテン語との距離について説明した。7月にはイギリス、Leeds大学で開催されたInternational Medeival Congressの1つのsessionで、古英語の感情表現の動詞の類義語に関する発表を行った。特に後者では、Monchen大学のHans Sauuer教授が司会を務めてくれたこともあり、Leeds大学のJoyce Hill名誉教授や、ポーランドのJacek Fisiak教授など、多くの学者と意見を交換することができ、またBritish Libraryのlibrarianから質問を受けるなど、有意義であった。Londonでの滞在はわずかだったが、MS Cotton Otho C.i(vol.I)の不鮮明な箇所を一部ながら確認することができた。また11月の東京大学本郷キャンパスで開催された日本英語学会では、今回の研究課題に関係するsymposiumを2007年9月に我々の英語史学会で行うことになっているメンバーとの打ち合わせを、本会の前に行うことができた。12月の京都産業大学での日本中世英語英文学会では司会を務めると共に、写本・聖書の専門家と意見を交わすことができた。
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