研究概要 |
今年度は特にMS CCCC140とMSULC Ii.2.11との間の相違点を明らかにすることを目標とした。すでにMS CCCC140とMS Bodley 441との間には,従来の調査以外に特記すべき体系的相違のないことが昨年までの調査で裏付けられたため,同系列でMatthewを欠くMS Cotton Otho C.i(vol.1)よりは,系列が違い,写本年代も半世紀は遅れるが,同一の原典をもつとされるIi2.11との比較が重要で,優先されるべきと考えた。8月のLund(Sweden)での国際英語正教授学会参加の際の写本研究家達との討議を踏まえ9月名古屋での我々主催の英語史学会シンポジウムでの発表で,その調査報告を行った。 まず語彙的には,訳語の選択にわずかな違いはあるものの,同じ聖書でも詩編訳とは異なり,Ii.2.11の選択の基準に法則性は見られなかった。次に機能語としての前置詞は,ラテンの格を訳出するかどうかよりも,2写本間の選択の違いが目立つ結果となった。前つづりに関しては,2写本どちらか一方が用いる場合がMatthew, Lukeに,前つづりを異にする場合がMark,Lukeに多く見られた。人称代名詞および関係詞として用いられる不変化詞では,選択の違いは主格に多く見られ,CCCC140に特徴的な3人称複数形の使用はIi.2.11には見られなかった。動詞形では様々な相違が見られた。特に1・2人称複数でのVS語順の場合の動詞形,不定形と分詞形,非定形に,それぞれの写本の特徴が出ていた。文脈全体の語順(要素順)に関しては,ラテンが同じでも古英語訳で語順を変え得ることがわかった。つまり,語順自体が比較的自由な古英語にとっては,語順の変換が文脈の理解の妨げとはならないのである。また,それぞれの写本の誤訳,「英語的」訳も,見つけることができた。
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