1.松藤(2000)で指摘した数量表現の意味の獲得順序に関する一般特性に関して、英語・日本語・独語の自然発話資料と実験資料をさらに加えて分析し、その一般性を高めた。その特性とは、基数的数量詞が比率的数量詞より早く使用されること、比率的数量詞の中では比率の100%の表現が1番早くに使われること、その次にそれより比率が少ない表現が使われるだろうという特性である。その特性を、松藤(2000)で提案した獲得原理を立てることなく、動的文法理論により説明できることを示した。 2.1.の一般特性で述べた点、比率的数量詞の中で比率の100%の表現が1番早くに使われ、その次にそれより比率が少ない表現が使われるということに関して、日本語においては、比率が100%より少ない表現(「たいてい」「大部分」「ほとんど」)が自然資料でも観察されず、実験研究もなされていないようである。そこで、日本語を母語とする大人と子どもに、場面を絵と物語で提示し、刺激文が場面設定に合致するかどうかをYes/No疑問文で問い、子どもから真偽の判断の情報を引き出す真偽値判断課題と呼ばれる実験を行った。その結果、日本語児は「ほとんど」が持つ比率を表す意味を獲得することが遅く、10歳ぐらいに主語・目的語にある「ほとんど」を正しく理解することを明らかにした。「ほとんど」の意味が遅く獲得されること、日本語児の実験で観察された大人と異なる解釈、英語児のmostの大人と異なる解釈は、動的文法理論に基づき説明できることを示した。
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